
この家は、最初から5ヶ月間の契約だった。
アパートホテルで過ごした3ヶ月に疲れたわたしたち夫婦が期限とされていた6月末までを「家」で過ごしたくて見つけたこの物件は、7月からはパリにいるオーナー家族が戻ってくるのでそれまでの間という契約だった。
わたしたちも6月末がひとつの区切りだったため、ぴったりな条件に見えたこの家に引っ越してきたのだ。
家はそれなりに整備されているし、利便性もけっこう良くて立地的にも申し分ない。けど、契約期間満了のため新たな家を探さなければならなかった。
わたしたちが今いるのはフランスでも指折りのリゾート地で、現地の人が言うには「フランスで最もステキなビーチ」らしい。
けど、ニースを拠点にしているわたしたちにはツッコミどころが多かった。実際にテレビや雑誌などでもそう紹介されているようなので根拠はあるようだ。
そんな地をベースにしているなか、「夏」「7~8月」「この近辺」「短期契約できる賃貸」となれば選択肢はかなり限られるし、仮にあったとしても週あたり8万円とかはザラである。
会社が払ってくれるとはいえ、さすがに月25万前後を請求するのは気が引ける(相場よりはるかに高い)し、追加の2ヶ月は様子見の期間なので会社も2つ返事で「いいよ」とはならないことを見込んでいた。
5月半ばからの2週間、あらゆる手段・方法を視野に入れて家探しをするも、「1ヶ月ごと更新」「賃貸」「小型犬OK」「夏のオンシーズンど真ん中」 なんて条件でさえすでにない。ここに「予算」の問題が追加されるので、家探しは途方に暮れていた。
まだあと、6月まるまる時間はあるじゃないか。
そう思える状態も、6/6~6/17までニースの義実家に帰省することになっている。お義母さんのお見舞いとわたしたちの結婚記念日&わたしの誕生日を兼ねて。
ニースから戻ってくるのが6/17、家の退去は6/30。ニースから帰ってて10日間で家を探し、内覧し、契約し、引っ越し準備をし、引っ越し完了までをたったの10日間でこなさなければならない。
そして、時間が経てばたつほど物件は減っていく。なぜならここはリゾート地だから。夏休みに入る7~8月は1年でもっとも需要が高まるシーズンであり、そのぶんオンシーズン価格で高騰する。
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今後の予定がわかっていたら、会社へ〇年単位の賃貸契約を提案できるし、会社ももちろん許可してくれる。けど、この瞬間の状況はちょっとちがう。
数年にわたる新プロジェクトの大型案件をクライアント側へ提案している最中。受注できるかもしれないし、できないかもしれない。その行方によってわたしたちの滞在期間もかわっていく。
ので、そのプロジェクトの行方がわかる8月までは、下手に動けないしなにもかもが保留になる。
このまま家探しが難航したら、「家族そろって(愛犬と一緒に)ホームレスになるの・・・?」という不安がわきあがってきた。
そんなある日(ニース行き1週間前)のディナー中、「Mikaと愛犬だけニースに残るってのも1つの選択肢だな~」なんて夫がいきなり言い出した。
え?? いまなんて?
それって別居?
びっくりして一瞬言葉が出てこなかったけど、「たしかにそれも1つの方法」ではあるし、夫1人で身軽なぶん、ホテルでも家でも探しやすいのはある。でも…。
夫からのこの一言で、わたしは自分の価値観をあらためて考えるきっかけになった。
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結局、ニース行きの前に解決策は見つかり、ホームレスになることも別居になることもまぬがれた。
この最終案にいきついてから、2日で内覧・契約までを終え、なんとかニース行き目前で家探しが落ち着いたのだ。
この件で考えさせられたのは、「わたしが一番大切にしている価値観はなにか?」ってこと。
お金・仕事・人生設計、いろんな視点・さまざまな価値観のなかで、一番大切に思っていること、 別居案が出てきたとき真っ先に浮かんだこと、それが「家族」だった。
「ボク達はチームだよ」
そう言ってくれる夫から教わったのは、「家族がいればいい」じゃなくて、「家族がいるからがんばれるし強くなれる」ってことだった。
わたしたちにまだ子どもはいないので家族といっても夫と愛犬なんだけど、2人と1匹が一緒にいられる時間を大切にしたい。そのために夫は好きな仕事で成果を出しているし、わたしも家族からのインスピレーションが仕事や活動に役立つことは多い。
『もし、家族3人(2人と1匹)が路頭に迷いホームレスになったら・・・?』
というわたしの不安や心配をもろともせず、夫が力強く言い放ったひとことに救われたりもした。
『もしそうなったら、会社なんて知るか!でニースの実家に帰るだけだよ』
ここでもやっぱり家族のつながりがある。
信頼できる夫、愛情をもらいまくってる愛犬、いつでも受け入れてくれる義両親、わたしが一番大切にしたい価値観、それは家族愛なんだってことに気づいたできごとだった。
わたしが自分の家族から得られなかったもの。だからこそ渇望してたし、ほしくてほしくてたまらなかったもの。そんな家族愛を、いまわたしは手にしてる。
さらに、夫がふと口にしたひとこと。
『世界規模で50%の子どもたちが飢餓状態にあるなか、たとえ賃貸でも生きるのに困らない生活環境があって、食事も不自由なくできている。この環境そのものに感謝だね』
って。わたしもほんとうにそう思う。
ニース行きは明日。13時間かけての長距離ドライブになるけれど、いつも温かく受け入れてくれる義両親に夫ともども甘えてきます。